2026年10月「106万円の壁」撤廃|週20時間の壁へ、何が変わり何が変わらないか

お金・制度

✍️ トレンドインサイト編集部|カテゴリ:お金・制度|2026年8月2日公開

出典:厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」(令和8年1月作成)/「令和7年度 地域別最低賃金全国一覧」/年金制度改正法(令和7年・2025年6月20日公布)

社会保険(厚生年金・健康保険)の加入を左右してきた「106万円の壁」が、2026年10月に撤廃される予定だ。きっかけは最低賃金の全国的な引き上げだった。撤廃後は、パートやアルバイトのうち週20時間以上働いていれば、収入額に関係なく加入対象になる。

ただし、この改正には誤解が多い。まず、企業規模要件(従業員51人以上)は残ったままで、こちらは2035年まで10年かけて段階的に撤廃される。「106万円の壁がなくなった=全員が対象」ではない。

そしてもう一点、あまり指摘されていないことがある。最低賃金がここまで上がった結果、賃金要件はすでにほとんど機能していない。撤廃されても、それだけで新しく加入対象になる人は多くない。この記事では、その根拠を最低賃金の実額から確かめたうえで、加入したときに家計がいくら動くのかを円単位で整理する。

📋 この記事でわかること

  • 106万円の壁が撤廃される理由と、その条件だった「時給1,016円」の意味
  • 最低賃金の実額で確かめる「賃金要件はもう機能していない」の根拠
  • 2026年10月以降の加入要件(変わるもの・変わらないもの)
  • 企業規模要件の段階撤廃スケジュール(2027〜2035年)
  • 扶養内だった人/自分で国保を払っていた人で真逆になる家計への影響

現行の加入要件は4つ、すべてを満たす必要がある

短時間労働者(パート・アルバイト)が社会保険に加入するためには、現在、以下の4つの要件をすべて満たす必要がある(学生を除く)。

【現行】社会保険(短時間労働者)の加入要件

① 所定内賃金が月額8.8万円以上(賃金要件)
② 週の所定労働時間が20時間以上(労働時間要件)
③ 勤め先が従業員51人以上の企業(企業規模要件)
④ 学生ではないこと

※ 残業代・賞与・通勤手当・臨時の賃金は①の月額賃金に含まない

2026年10月からは、このうち①の賃金要件のみが撤廃される。②③④は引き続き有効だ。

なぜ2026年10月なのか|撤廃の条件は「時給1,016円」だった

年金制度改正法(令和7年・2025年6月20日公布)は、賃金要件をいつ廃止するかを法律本文で決めていない。「全国の最低賃金の引き上げ状況を見極めた上で、公布から3年以内の政令で定める日に廃止する」という書き方だった。つまり撤廃は最初から確定事項ではなく、最低賃金の水準に連動する条件つきの措置だった。

その条件が時給1,016円である。編集部が厚生労働省の資料(令和8年1月作成「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」)を確認したところ、「全ての都道府県で令和7年度地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことにより、週20時間以上働くすべての方が自動的に社会保険の加入対象になるため、令和8(2026)年10月に賃金要件を撤廃する予定」と明記されていた。

1,016円という数字の出どころは単純な割り算だ。月額賃金は「時給×週の所定労働時間×52週÷12か月」で換算する。週20時間なら月86.67時間にあたるので、8.8万円を86.67で割ると1,015.4円。端数を切り上げて1,016円になる。

編集部の検証:最低賃金の実額で計算するとどうなるか

では実際に、令和7年度の最低賃金で週20時間働くと月額はいくらになるのか。厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金全国一覧」の実額を使って編集部で計算した。同じ形の表は他の媒体には見当たらなかった。

区分 時給 週20時間の月額 年収換算 8.8万円ライン
最低額(高知・宮崎・沖縄) 1,023円 88,660円 約106.4万円 ◎ 超える
全国加重平均 1,121円 97,153円 約116.6万円 ◎ 超える
最高額(東京) 1,226円 106,253円 約127.5万円 ◎ 超える
【参考】撤廃の条件ライン 1,016円 88,053円 約105.7万円 ちょうど超える

※ 月額=時給×20時間×52週÷12か月で編集部が計算。年収換算は月額×12。令和7年度地域別最低賃金(全国加重平均1,121円、最低額1,023円、最高額1,226円)は厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金全国一覧」による。

結論はひとつだ。最低賃金が全国で最も低い県であっても、週20時間ちょうど働けば月88,660円になり、8.8万円の賃金要件をすでに満たしている。しかも年収換算は約106.4万円で、「106万円の壁」とほぼ同額になる。106万円という数字はもともと月8.8万円を12倍したものなので、これは偶然の一致ではない。

つまり2026年10月の賃金要件撤廃は、すでに実質的に満たされている条件を、法律上も消すという整理に近い。「壁がなくなって急に加入させられる」という性質の改正ではない。

逆に言えば、加入を本当に分けているのは週20時間という時間の線だけになる。時給1,023円なら、週20時間で月88,660円、週19時間なら月84,227円。撤廃後はこの金額の差ではなく、20時間に届くかどうかだけで加入が決まる。「106万円の壁」が「週20時間の壁」へ置き換わる、というのはそういう意味だ。

変わるもの・変わらないもの

撤廃されるもの(2026年10月〜)

  • 月額賃金8.8万円以上の「賃金要件」→ なくなる

引き続き残るもの

  • 週20時間以上の「労働時間要件」→ 変わらない
  • 従業員51人以上の「企業規模要件」→ 段階的に撤廃(2027〜2035年)
  • 学生は対象外→ 変わらない

⚠️ 落とし穴:最低賃金減額特例の対象者は別扱い

最低賃金法の減額特例(精神・身体の障害等がある場合)の対象となる短時間労働者で、月額賃金が8.8万円未満の場合は、賃金要件撤廃後も原則として社会保険の加入対象外になる。申出により任意加入は可能だが、自動的に加入対象になるわけではない。この点は多くのメディアが省略しているが、厚生労働省の公式資料(※2)に明記されている重要な留意点だ。

企業規模要件:2027〜2035年に段階撤廃

賃金要件と並行して、企業規模要件も段階的に縮小される。編集部が厚生労働省の年金制度改正法説明資料を確認した内容を整理すると、以下のスケジュールになる。

📊 企業規模要件の段階撤廃スケジュール

51人以上(現行)
すでに対象(現在)
36〜50人
2027年10月〜
21〜35人
2029年10月〜
11〜20人
2032年10月〜
1〜10人
2035年10月〜

つまり、2026年10月の段階では「51人以上の企業で週20時間以上働くパート・アルバイト」が引き続き加入対象の中心だ。小規模な個人商店やカフェで働くパートが即座に対象になるわけではない。自分の勤め先が何人規模かを確認することが先決になる。

なお、企業規模要件の段階縮小を待たずに、労使合意に基づいて任意に社会保険を適用することも可能だ。

家計への影響は、いま扶養内かどうかで真逆になる

ここが一番大事なところだ。同じ「社会保険に加入する」でも、いまの立場によって家計への影響は増える方向にも減る方向にも動く。厚生労働省が示している試算をもとに、2つのパターンで確認する。

パターンA:年収106万円・配偶者の扶養内だった人(第3号→第2号)

これまで保険料を1円も払っていなかった人が、新たに負担を負うケース。負担は確実に増える。

📌 年収106万円ケースの変化

保険料(本人負担):ゼロ → 月12,500円(厚生年金8,100円+健康保険4,400円/年150,000円)

会社の負担:月12,500円(同額を事業主が負担する)

将来の年金:月8,800円増(20年加入・終身受給を想定)

ここで「元が取れるまで何年か」を正しく計算しておきたい。ネット上には「1〜2年で回収できる」といった説明が見られるが、これは1年分の保険料を1か月分の年金増額で割った計算になっており、単位が合っていない。

正しくは、支払う総額と受け取る総額を同じ単位でそろえる。20年加入した場合、本人が払う保険料の総額は12,500円×12か月×20年=300万円。これに対して増える年金は月8,800円=年105,600円。300万円÷105,600円で、回収にはおよそ28年かかる。65歳から受け取り始めるなら、93歳前後でようやく払った額に追いつく計算になる。

この数字だけを見ると割に合わないように思えるが、保険料の見返りは老齢年金だけではない点も同時に押さえておきたい。厚生年金に加入すると、病気やけがで働けない期間の傷病手当金、産休中の出産手当金が受け取れるようになり、障害厚生年金・遺族厚生年金の対象にもなる。さらに、本人が払う額と同額を会社も負担しているため、制度に入るお金は月25,000円分ある。「28年」は老齢年金だけで測った下限値であって、保障全体の損益ではない、というのが編集部の見方だ。

パターンB:年収130万円・自分で国保を払っていた人(第1号→第2号)

すでに国民年金・国民健康保険に加入していたケース(自分で保険料を払っていた)。

📌 年収130万円ケースの変化

保険料(本人負担):国民年金+国保月23,600円 → 厚生年金+健保 月15,600円月8,000円の負担減

将来の年金:月11,100円増(20年加入・終身受給を想定)

こちらは保険料が月8,000円下がり、しかも将来の年金が増える。年間にすると96,000円の負担減だ。損になる要素が見当たらない。パート収入が130万円前後で国民健康保険料を自分で払ってきた人にとって、加入対象になることは素直にプラスと考えてよい。

同じ制度改正が、扶養内だった人には年15万円の負担増、国保を払っていた人には年9.6万円の負担減として現れる。ニュースで「負担増」とだけ聞いて身構える前に、まず自分がどちらの側にいるかを確認してほしい。年金手帳や健康保険証で、いま第1号か第3号かを確かめるのが出発点になる。

3年間だけ保険料が軽くなる特例がある(条件つき)

新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者には、3年間、本人の保険料負担を軽くできる特例が用意されている。厚生労働省の資料では、月額賃金8.8万円(年収106万円相当)の人の負担は「本来の25/50」、つまり半額まで下がると示されている。

ただし、ここには読み落としやすい条件が2つある。

1つ目は、これが自動的に全員へ適用される仕組みではないこと。資料の記述は「3年間事業主の追加負担により、社会保険料の負担を軽減できる特例的な措置」となっており、事業主が本人負担分の一部を肩代わりすることが前提になっている(その肩代わり分は全額を制度全体で支援する設計)。勤め先がこの措置を使うかどうかで結果が変わるため、自分の職場が対応するかは会社に確認する必要がある

2つ目は、3年間フルに半額が続くわけではないこと。同資料には「3年目は軽減割合を半減」と注記がある。1〜2年目は半額でも、3年目は軽減幅が半分になり、4年目からは本来の負担に戻る。

仮に3年間この特例が使えたとすると、パターンAの本人負担は3年間で262,500円(通常なら450,000円)となり、18万円ほど軽くなる。先ほどの回収年数も28年から27年弱へ縮む。効果はあるが、損益の構図そのものを変えるほどではない、というのが実額で見たときの位置づけだ。

✍️ 編集部の見解:本番は2026年10月ではなく2027年10月から

報道では「2026年10月に106万円の壁が撤廃」という見出しが並ぶ。だが最低賃金の実額で確かめたとおり、賃金要件はすでに機能を失っている。今年10月の撤廃で新たに加入対象へ入る人は、そう多くない。厚生労働省が示す「約90万人」という加入拡大の効果も、2026年10月だけの数字ではなく、2035年まで続く企業規模要件の段階撤廃まで含めた全体の見込みである。ここを取り違えると、影響の大きさを読み違える。

実際に生活が動くのは、企業規模要件が51人以上から36人以上に下がる2027年10月からだ。従業員36〜50人の職場で週20時間以上働いている人は、来年のこのタイミングで初めて対象になる。以降、2029年・2032年・2035年と対象が広がっていく。「どうせ2035年まで自分には関係ない」と考えている人ほど、自分の勤め先の規模と該当年を先に確認しておいたほうがよい。

もう1点、注意しておきたいのが年齢だ。パターンAで見たように、老齢年金だけで保険料を回収するには20年加入で約28年かかる。50代後半や60代で新たに加入する場合、受給期間が短くなるぶん、老齢年金の増額だけでは払った額に届かない可能性が高い。この年代は、年金の増額よりも傷病手当金などの保障面と、会社が同額を負担している事実をどう評価するかで判断が変わる。年齢によって答えが変わる問題であり、「加入すれば得」と一律に言えるものではない。

よくある質問

▶ Q. 2026年10月から、週20時間のパートは全員が社会保険に加入するの?
いいえ、全員ではありません。2026年10月以降も企業規模要件(51人以上)は残ります。週20時間以上働いていても、勤め先が50人以下の企業であれば原則として加入対象外です(労使合意による任意加入は可能)。企業規模要件は2027〜2035年に段階的に撤廃される予定です。
▶ Q. 106万円を超えないようにシフトを調整する必要はある?
2026年10月以降は、106万円(月8.8万円)という金額基準が加入要件から外れるため、従来のように収入額を調整してシフトを絞る意味はなくなります。ただし、週20時間という労働時間要件は残ります。「時間を減らして社会保険を避ける」働き方は引き続き可能ですが、加入した方が将来の年金が増えるメリットもあります。
▶ Q. 配偶者の扶養(第3号)から外れるとどうなる?
第3号被保険者(配偶者の扶養)から外れると、自分自身の保険料負担が発生します。年収106万円のケースでは月12,500円(年150,000円)が本人負担です。一方で将来受け取る年金は月8,800円(年105,600円)増えます。20年加入した場合、払う総額は300万円になるため、老齢年金の増額だけで回収するにはおよそ28年かかります。ただし傷病手当金・出産手当金や障害厚生年金・遺族厚生年金の対象になること、会社が同額を負担していることも合わせて判断してください。
▶ Q. 賃金要件撤廃は「政令で定める日」とあるが、2026年10月で確定なの?
厚生労働省が令和8年1月に作成した資料「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」では、令和7年度の地域別最低賃金が全都道府県で1,016円を超えたことを理由に「令和8(2026)年10月に賃金要件を撤廃する予定」と記載されています。法律が定めた廃止の条件は満たされた状態です。ただし厚生労働省自身の表記も「予定」であり、施行日を定める政令が公布済みかどうかは本記事の執筆時点(2026年8月2日)では未確認です。日程が動く可能性は残るため、最終的には厚生労働省の発表でご確認ください。
▶ Q. 個人事業主(農業・飲食業など)のパートは対象になる?
現在、個人事業所のうち法定17業種以外(農業・林業・漁業・宿泊業・飲食サービス業など)は社会保険の適用対象外です。この点は2029年10月から拡大される予定ですが、2029年10月時点で既に存在している事業所は当分の間、対象外のままとなります。新たに開業した事業所は2029年10月以降に対象になります。

まとめ

  • 2026年10月に撤廃されるのは賃金要件だけ:週20時間以上・従業員51人以上・学生でないことの3つは残る
  • 賃金要件はすでに機能していない:最低賃金が最も低い高知・宮崎・沖縄(1,023円)でも、週20時間で月88,660円となり8.8万円を超える
  • 本当の分岐点は週20時間:撤廃後は金額ではなく労働時間だけで加入が決まる
  • 生活が動くのは2027年10月から:企業規模要件が36人以上に下がり、そこから2029年・2032年・2035年と対象が広がる
  • 扶養内だった人(第3号)は年150,000円の負担増。老齢年金の増額だけで回収するには約28年かかる
  • 国保を払っていた人(第1号)は逆に年96,000円の負担減。しかも年金は増えるので素直にプラス
  • 3年間の軽減特例は条件つき:事業主の追加負担が前提で、3年目は軽減幅が半分になる。勤め先に確認が必要

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※【出典】
・厚生労働省「短時間労働者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入拡大のポイント」令和8(2026)年1月作成
・厚生労働省「年金制度改正法(令和7年)法律説明資料(概要版)」
・厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金全国一覧」(全国加重平均1,121円/最低額1,023円/最高額1,226円)
・年金制度改正法(令和7年・2025年6月20日公布)
※ 本文中の月額賃金・年収換算・回収年数は、上記の公表値をもとに編集部が計算したものです(月額=時給×20時間×52週÷12か月、回収年数=本人負担総額÷年金増加額)。保険料率が将来変わった場合は結果も変わります。
※【免責】本記事は公表されている情報をもとに編集部が整理したものです。賃金要件の撤廃時期は厚生労働省資料の表記どおり「予定」であり、施行日を定める政令の公布状況は執筆時点で未確認です。個別の加入判断や保険料計算については、日本年金機構または勤務先の担当部署にご確認ください。

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